「趣味のクルマに乗るのは何年ぶりだろう・・・」
目の前の納車されたボクスターを見て、年月を数える。
「40歳の時に初めて買った987、14年後、どうしてもガマンできなくなって買い換えた989、そして、それを9年後に事故で失った時には、ポルシェはもうフラットシックスを作っていなかった・・・」
モーターで静かに走るポルシェにはどうしても魅力を感じる事が出来ず、私はポルシェから降りたのだった。
しかし、今目の前にあるボクスターには、そんな年寄りの気持ちを動かす新しいオプションが付いていた。
「ポルシェ・エンジンサウンド・システム(PESS)」だ。
納車されたばかりのボクスターに乗り込み、モニターに触れてメニューを出す。PESSのセットアップを呼び出すと、歴代ポルシェの型式が出てきた。
「なんと、ナローからあるのか」
911型を選択し、アクセルをあおると・・・「ブゥオン!」ボクスターが叫んだ。
アクセルにあわせて室内のスピーカーからエンジン音が流れたのだ。
「くぅ~、たまらん。やっぱり年寄りにはこの音が無いと物足りん」
全て実車からサンプリングしたと言うそのサウンドは、室内に17個あるスピーカーから出力され、臨場感あふれる空間を作る。
「お、パナメーラもあるのか」
メニューからポルシェ初の4ドアセダン、パナメーラを選びアクセルをあおる。
ブゥオンオン!
「お、エンジンが前に移動したぞ」
ちゃんとエンジンの搭載位置にあわせて音の出方が変わるのだ。
「でもやっぱりポルシェならば後ろから聞こえねば・・・」
993を選んでアクセルを吹かす。「クゥオン!」と空冷の乾いた音が後ろから響く。
「いいぞ・・・。やはりポルシェはこうでないといかん」
そして、550スパイダー、カレラGTなど一通り遊んだ後・・・
「さてと・・・やはり初ドライブはこいつだろう」
私は、今から30年前に初めて手に入れた987型ポルシェボクスターを選択すると、屋根を開けて走り出した。
初めてのポルシェで走ったあの峠道を目指して。